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院長ブログ

二酸化炭素とビタミンK

 ビタミンKのKはA、B、C、・・・に続くKではなく、ドイツ語のKoagulation、つまり「凝固」に由来します。このビタミンは1935年に血液凝固(けがをした時などに出血を止める反応)に必要なビタミンとして発見されました。その後骨代謝や動脈硬化などとの関連が明らかになり、さらに最近では前回取り上げた「フェロトーシス」という細胞死にも関連することも分かってきました。

 ヒトでのビタミンKの主な役割は血液凝固に関連する蛋白質をはじめとする特定の蛋白質(ビタミンK依存性蛋白質)中のグルタミン酸の部分に二酸化炭素を付ける酵素を助けることと言ってよいでしょう。我々の身体の中でビタミンKは「二酸化炭素の固定」に働いています。

 二酸化炭素は呼気に排出され、化石燃料の燃焼によっても産生されます。それを吸収する役割の大きな部分を担っているのが森林です。近年は森林が吸収する二酸化炭素の量を計測して、カーボンクレジットを生み出す動きもあります。森林での主な二酸化炭素固定は植物による光合成によって行なわれています。1987年、ビタミンKはこの光合成システムの「光化学系Ⅰ」に組み込まれて電子をやりとりしていることが報告されました。ヒトの血液凝固に必要なビタミンとして発見されてから50年余り経って植物における「本来の」役割が判明しました。このようにビタミンKはヒトでも植物でも二酸化炭素の固定に役立っています。

 植物は自分でビタミンKを作ることができますが、ヒトはビタミンKを作ることができず、食物から得ています。さらに腸内細菌も重要な供給源です。ビタミンKは腸内に「共生」している腸内細菌からも得られているユニークなビタミンです。なお、ビタミンB群も腸内細菌で作られますが、必要量のどのくらいをまかなっているかは不明です。ビタミンKには多くの種類がありますが、主に植物に由来するのがビタミンK1(フィロキノン)。細菌由来のものはビタミンK2(メナキノン)です。納豆に多く含まれているビタミンKは納豆菌由来のビタミンK2です。

 ビタミンKは光合成の場で働き、地球環境を保つ役割を果たしていることを思うとビタミンKのKが環境(kankyou)のKにも見えてきます。