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院長ブログ

クレアチニンについて

 人間ドックや健診での血液検査で腎臓関連の項目には、尿素窒素、クレアチニン、eGFRが並んでいます。以前のブログで尿素は肝臓でのアンモニア処理の結果生ずるものであることを紹介しました。尿素窒素は尿素に由来する窒素の量であり、腎機能が低下したときなどに血液中濃度が上昇します。クレアチニンも元をたどると肝臓に達します。この血中濃度も腎機能が低下すると上昇します。

 クレアチニンのもとになるものが一文字違いのクレアチンです。クレアチンは肝臓でアミノ酸のグリシン、アルギニン、S-アデノメチオニンから合成されます。クレアチンは筋肉に運ばれるとリン酸化されてクレアチンリン酸となり、エネルギーの貯蔵に利用されます。このクレアチンリン酸の一部が「一定の速度」でクレアチニンに変化して血中に出てきます。血中に出てきたクレアチニンは腎臓の糸球体で濾過されて、「尿細管で再吸収や分泌されずに」尿中に排泄されます。このため、血清クレアチン濃度は糸球体での濾過量を反映する数値として使われます。一方、腎臓の糸球体で濾過されて原尿(尿の元)に出て行ったものの多くは尿細管で再吸収されたり分泌されたりして、体内の恒常性が保たれます。血中のクレアチニンは筋肉から入ってくるものと腎臓から出ていくものとのバランスで成り立っており、血中濃度には腎機能以外にも、筋肉の量や食事摂取の状況も関わっているのです。このことはeGFRを使う時の注意点にもつながります。

 腎臓は体内の水分やミネラルのバランスを保つこと、老廃物を排泄すること、血圧の調整をすること、赤血球造血に必要なエリスロポエチンを作ること、ビタミンDなどさまざまな物質の代謝を行うことなど、まさに身体にとって肝腎な多様な働きをしています。これらの働きは糸球体での濾過能力が低下することによって妨げられます。このため、腎臓のさまざまな機能のうち、糸球体濾過率(glomerular filtration rate, GFR)が腎機能を評価する代表的な指標になります。人間ドックや健診の結果表に尿素窒素やクレアチニンに並んでいるeGFRはestimated GFR、つまり推定GFRでです。eGFRは血清クレアチニン濃度と年齢、性別から成り立つ計算式で得られる数値です。この計算式は「手計算」は難しく、関数電卓で計算するか、インターネット上の式にソフトに入力することが必要です。「推定」ではなく、「真」のGFRとも言える数値はイヌリンという物質をつかった検査で得られますが煩雑な検査であり、臨床の場ではほとんど使われません。eGFRを得るための計算式はイヌリンを用いて得られるGFRにできるだけ合わせるように編み出されたものであり、慢性腎臓病(CKD)や抗がん剤などの薬剤至適化には欠かせないものとなっています。ただし、イヌリンを用いて測定したGFRを実測値とした場合、クレアチニンを用いたeGFRが実測値の±30%に入る確率は約75%です。eGFRが簡便さを持っている反面、精度に限界もあることを知っておくべきでしょう。先にも述べたようにeGFRに用いられる血清クレアチン濃度は筋肉量に左右されます。筋肉量が減少する疾患や長期臥床による筋肉量減少時にはeGFRは高くなる可能性があります。その反対に筋肉量が多いアスリートなどでは低くでる傾向にあります。広く使われるeGFRですが、算定の元になるクレアチニンについて理解しておくことも大切です。