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院長ブログ

長寿ネズミと幸せホルモン

 長寿のネズミとして注目されているハダカデバネズミはその名の通り体毛に乏しく、歯が出ているネズミで、地中で集団生活をしています。このネズミの最大寿命は30年を越え、普通のマウスの寿命の10倍にも達します。老化研究の分野でさまざまな研究がなされ、長寿であること以外にも、がんになりにくい、「ストレス」に強い、体温が低い、野生では特殊な社会を築いていることなど多くの興味深いことがわかってきました。つい最近もハダカデバネズミの長寿を説明するメカニズムの一つが報告されました(熊本大学などの研究グループから2023年7月11日付のEMBO Journal)。

 以前のブログ(2023年5月2日)でも触れましたが、加齢に伴って出現する老化した細胞がそのまま「居座る」と、炎症を起こすサイトカインなどを増やしてまわりの細胞に悪影響を及ぼすと考えられています。今回発表されたのは、ハダカデバネズミの細胞を老化させると細胞内で作られる過酸化水素が老化細胞を細胞死に導いているということです。過酸化水素は殺菌や消毒にも使われますが、細胞内で過剰に発生して、ある条件が整うと細胞毒性を発します。また、ハダカデバネズミの老化細胞では過酸化水素の原料として使われるのは、アミノ酸から作られるホルモンであるセロトニンであることも示されました。老化細胞を居座らさない仕組みの一端が説明され、今後の進展が期待されます。ところで、この仕組みの前提となるハダカデバネズミの特徴が2つあります。その一つがハダカデバネズミはセロトニンを元々たくさん持っていること、もう一つがハダカデバネズミの細胞が過酸化水素に弱いことです。

 セロトニンはアミノ酸のトリプトファンから作られるホルモンですが、「幸せホルモン」の一つとしても知られています。セロトニンは睡眠に大切なホルモンであるメラトニンの材料にもなります。実はヒトの体内のセロトニンはほとんどが腸の中で作られています。腸内環境と健康とのつながりの一面とも言えます。ハダカデバネズミのセロトニンがどこに由来するか、ヒトとハダカデバネズミでセロトニンの代謝や働きにどのような違いがあるか、興味は尽きません。幸せホルモンが多いこと自体が長寿につながっている?と想像したいところでもあります。